手編みニットは、編み上げたあとに「水通し」という工程を行うことで、完成した作品の質感や見た目に大きな違いが生まれます。水通しを行うことで、編み目が均一になり、糸のヨレや歪みが解消されるため、プロフェッショナルな仕上がりに近づきます。
さらに、ニット特有の柔らかさやふんわりとした風合いがより引き出されるため、着心地も向上します。水通しの後には適切な乾燥やブロッキング、アイロンがけなどのケアが必要で、これらを丁寧に行うことで型崩れを防ぎ、美しい模様や編み目を長く保つことが可能になります。
また、水通しは糸の種類によってもその効果や注意点が異なり、ウール・アクリル・モヘアなど、それぞれの素材に合った取り扱いが求められます。誤った方法で扱うと、縮みやフェルト化など、せっかくの作品を傷めてしまう原因にもなります。そのため、正しい知識と手順を知っておくことが非常に重要です。
この記事では、水通しの基本的なやり方に加え、使用する洗剤の選び方、素材別の取り扱い方法、さらには仕上げと保管、洗濯時の注意点まで、手編みニットを美しく保つためのケア方法をわかりやすく丁寧に解説します。初心者の方はもちろん、すでに編み物を楽しんでいる方にも役立つ情報をお届けします。
手編みニットの水通しとは?
水通しの目的
水通しとは、完成した編み物を一度水に通すことで、糸のヨレや編みムラを整える作業です。
この工程により、編み目が均等になり、見た目の美しさが格段に向上します。特に模様編みやレース編みの作品では、水通しによって模様がはっきりと際立ち、デザインの魅力がより際立ちます。また、水通しを行うことで糸自体の状態も安定し、着用時の伸び縮みや変形を防ぐ効果があります。
特に天然素材の毛糸、たとえばウールやアルパカなどには、製造時に油分や糊が付着していることが多く、それが作品の風合いに影響を与えることがあります。
水通しをすることでそれらの成分が除去され、毛糸本来の柔らかさや肌触りが引き出されます。さらに、編んでいる間に生じた軽微なヨレやよじれも解消され、完成後の形状安定性が高まります。
水通しに使う洗剤の選び方
水通しの際には、繊維に優しい中性洗剤や、おしゃれ着用洗剤を使用するのが基本です。
蛍光増白剤や漂白成分が含まれている洗剤は、色落ちや風合いを損なう原因となるため避けましょう。特に色糸を使っている場合や、濃い色の糸を使った作品では注意が必要です。
柔軟剤を少量加えることで、作品の仕上がりがさらに柔らかくなり、着心地も向上します。また、ウール専用やベビー用など、敏感肌にも優しい洗剤を選ぶと、肌触りが一層良くなります。無香料タイプを選ぶと、糸本来の香りや風合いを楽しむことができるため、香りが苦手な方にもおすすめです。
水通しの基本的なやり方
- 洗面器やたらいにぬるま湯(30℃以下)を張る。熱すぎるお湯は糸を傷める可能性があるので注意。
- 中性洗剤を規定量より少なめに加え、泡立てないように静かに混ぜる。
- 編み上がったニットを丁寧に沈め、手のひらで軽く押すようにして洗う。絶対にこすらない。
- 10〜15分程度つけ置きし、その後きれいな水に替えて2〜3回すすぐ。泡が完全になくなるまで丁寧に行う。
- 軽く水を切ったあと、清潔なバスタオルに包み、押すようにして水分を取る。ねじったり絞ったりするのはNG。
- 最後に形を整えて平干しし、自然乾燥させる。直射日光を避け、風通しの良い日陰で乾かすのがベスト。
水通し後の仕上げ方法
ブロッキングの重要性
水通し後のニットは、まだ形が整っていません。ここで行うのが「ブロッキング」と呼ばれる工程です。これは、作品を乾かす際に理想的な形に整えるための作業であり、最終的な仕上がりを美しく保つために不可欠なプロセスです。平らな場所に置いて形を整えながら乾かすことで、編み目が整い、模様がくっきりと浮かび上がります。
特にレース模様や透かし編みなど、繊細なパターンが施された作品では、このブロッキングの工程によって模様の美しさが最大限に引き立ちます。また、着用時のフィット感やラインも整いやすくなり、見た目の完成度が格段に上がります。
ブロッキングによって作品に張りと立体感が加わり、まるで既製品のような仕上がりになることもあります。編み物を趣味とする人にとって、ブロッキングは技術をワンランク上に引き上げる大切なステップなのです。
スチームアイロンの使い方
編み目を整えたいときに効果的なのがスチームアイロンの使用です。
ただし、注意点も多くあります。直接アイロンをニットに押し当ててしまうと、熱によって縮んだり、風合いを損ねたりする可能性があるため、浮かせながらスチームを当てる「浮かしアイロン」が基本となります。
ウールやモヘアなど熱に弱い素材では特に慎重な扱いが必要で、当て布を使って間接的にスチームを与えるのがおすすめです。スチームを当てることで編み目がふんわりと広がり、ニット特有の柔らかさが一層際立ちます。
アイロンの設定温度は素材に応じて調整し、必ず低温から始めるようにしましょう。ブロッキング後の最終仕上げとして取り入れると、作品により完成度の高い印象を与えることができます。
ピンでの固定方法
作品を理想的な形に保つためには、ピンを使った固定が非常に効果的です。
特に形が崩れやすい部分や、角や縁などをしっかり整えるには、Tピンや防錆加工された専用ピンの使用が推奨されます。ピンを均等に配置することで、作品全体が引き締まり、左右対称の美しいシルエットに仕上がります。
ニット用のブロッキングマットを使用すると、目盛りが付いているため正確に配置しやすくなり、初心者でも形を整えやすくなります。
ピンの位置は引っ張りすぎず、糸に負担がかからない程度に調整することがポイントです。特に模様のある部分は慎重に整え、乾燥中も形が崩れないようこまめに確認しましょう。ブロッキングの丁寧さが、最終的な作品の見た目に直結します。
素材別の水通しケア
ウールの水通し後の注意点
ウールは非常にデリケートな素材であり、水や摩擦に弱く、特にフェルト化しやすいという特性を持っています。フェルト化とは、繊維同士が絡まり合い、縮んで硬くなる現象のことで、誤った取り扱いによって元の風合いを損なってしまうことがあります。そのため、水通しの際は細心の注意が必要です。
ぬるま湯(30℃以下)を使用し、絶対にこすらずに優しく押し洗いすることが重要です。洗剤を使用する場合は、ウール専用の中性洗剤を選びましょう。洗ったあとは清潔なバスタオルに包んで水分をやさしく取り除き、決してねじったり絞ったりしないようにします。
乾燥時には平らな場所に置いて自然乾燥させ、吊るすと重みで伸びたり型崩れの原因になるため避けてください。
加えて、ウールの目を整えるためにはブロッキングも重要です。水通し後すぐにピンで形を整えて固定すると、美しいシルエットが保たれます。保管する際にも通気性の良い場所で湿気を避けるようにし、虫食い対策として防虫剤を併用すると安心です。
アクリルとコットンの特性
アクリルは化学繊維であり、非常に丈夫で取り扱いやすい素材です。色落ちや型崩れが少なく、水通しや洗濯時にも比較的安心して扱えます。ただし、熱に弱いため高温のスチームやアイロンには注意が必要です。低温設定でスチームを浮かせるようにかけると、編み目がきれいに整います。
一方、コットンは吸水性が高く肌触りも良い天然素材ですが、伸縮性に乏しいという特徴があります。そのため、水通しの後は形をきちんと整えた状態で平干しし、乾燥中に歪みが出ないよう注意が必要です。目が揃いにくい場合には軽くスチームをかけることで編み目を美しく仕上げられます。
アクリルもコットンもケアが比較的簡単ですが、それぞれの特性を理解し、水温やスチームの使い方に注意すれば、美しい仕上がりが長く保てます。作品に合わせた扱いを心がけましょう。
モヘアの取り扱い
モヘアはアンゴラヤギの毛から作られる高級素材で、非常に軽くて暖かく、ふんわりとした毛羽立ちが特徴的です。しかしその分、非常に繊細で取り扱いには十分な注意が必要です。
水通しはごく短時間で済ませ、絶対にこすらず、押し洗いのみにとどめます。お湯は避け、必ず冷水またはぬるま湯で処理しましょう。洗剤はウールと同様、中性のやさしい成分のものを使用します。
また、乾燥時には毛並みが乱れないよう、平干しの際に形をしっかりと整え、風通しの良い日陰で自然乾燥させます。ブロッキングの際には、毛羽立ちを潰さないよう優しく整えることが大切です。スチームアイロンを使う場合は浮かせた状態で行い、当て布を使用することでダメージを最小限に抑えることができます。
モヘアの特性を活かすためにも、丁寧な水通しと仕上げケアを心がけましょう。
水通ししない場合のリスク
編み物がどのように変化するか
水通しを行わない場合、完成したニット作品にさまざまな変化が生じる可能性があります。
まず、仕上がりの段階で形が歪んでしまったり、編み目がバラバラに見えてしまったりすることがあります。特に模様編みや透かし模様など、繊細なデザインを取り入れた作品ではその差が顕著に現れます。
また、水通しをしないことで、糸に含まれている製造時の糊や油分が残ったままとなり、本来の柔らかさや肌触りが引き出せないままになってしまいます。これにより、完成品の風合いが硬く感じられたり、快適な着用感が損なわれたりする場合もあります。
着用や洗濯を重ねることで、こうした未処理の作品はさらに変形しやすくなります。特に伸びやすい部位(袖口、裾、襟ぐりなど)は形状が崩れやすく、全体のバランスが悪くなる原因にもなります。
水通しはこうしたトラブルを未然に防ぐための重要な工程といえるでしょう。
編み物の寿命に与える影響
水通しをしないまま使用や洗濯を繰り返すと、糸に残ったねじれやヨレがそのまま継続的に摩擦を受け、徐々に繊維が傷んでいくことになります。その結果、毛羽立ちや糸切れが早く起こりやすくなり、せっかく時間をかけて編んだ作品の寿命が短くなってしまいます。
特に天然素材の糸はデリケートであり、余計なストレスを与えることで繊維の劣化が早まります。水通しをすることで編地が落ち着き、繊維同士のバランスが取れるため、摩擦や伸縮への耐久性が増します。結果として、長く愛用できる丈夫なニットに仕上げることができます。
見た目の違い
水通しをした作品とそうでない作品では、完成後の見た目に明確な違いが現れます。
水通しを経たニットは、編み目が整い、目が詰まりすぎることもなく、ふんわりとしたナチュラルな印象を与えます。模様編みや色の切り替えもくっきりと際立ち、作品全体に統一感が出て高級感すら漂います。
一方で、水通しをしていない作品は編み目が凸凹していたり、形がやや歪んでいたりして、素人っぽい仕上がりになりやすい傾向があります。また、縮みやヨレがそのまま残ることで、着用時にフィットしない、あるいはごわつくといった問題も発生します。
完成後の見た目を美しく保ちたいなら、水通しは欠かせない工程といえるでしょう。
手編みニットの洗濯方法
洗濯機での洗濯の注意点
手編みニットを洗濯機で洗う場合は、まずニット専用の洗濯ネットに入れることが重要です。これは摩擦や絡まりを防ぎ、編み目が伸びたり毛羽立ったりするのを防止するためです。
洗濯モードは「おしゃれ着コース」や「ドライコース」、「手洗いコース」など、衣類に優しい設定を選びましょう。これらのモードは回転数が低く、デリケートな素材を傷めにくい構造になっています。
また、洗剤には中性洗剤やウール・シルク対応の洗剤を選ぶことが推奨されます。色移りや生地の劣化を避けるため、漂白剤や蛍光剤の含まれた洗剤は避けてください。さらに、脱水は1分以内、できれば10〜20秒程度の軽い脱水にとどめましょう。長時間脱水すると、編み目が崩れたり、型崩れの原因になる可能性があります。
乾燥機の使用は厳禁です。高温で乾燥させると、縮みやフェルト化が起こり、ニットの風合いが損なわれてしまいます。洗濯表示タグに記載された取り扱い方法にも必ず従いましょう。表示が不明な場合は、念のため手洗いを選ぶのが無難です。
手洗いの手順
- 洗面器またはたらいに30℃以下のぬるま湯を用意し、中性洗剤を表示より少なめに溶かす。
- ニットをやさしく沈め、押し洗いで全体をきれいにする。強くこすらないように注意する。
- すすぎは2回以上、泡が完全になくなるまで丁寧に行う。洗剤残りは繊維を劣化させる原因になる。
- タオルで挟み込みながら水分を吸収させ、決して絞らずに軽く押さえて水を抜く。
- 形を整えてから平干しし、風通しの良い日陰で自然乾燥させる。直射日光は避ける。
脱水の適切なやり方
脱水の際は、清潔なバスタオルの上にニットを広げ、タオルで巻き込みながらやさしく押して水分を取ります。この「タオルドライ」はニットの形を保ちながら余分な水分を取り除ける最も安心な方法です。
どうしても洗濯機の脱水機能を使う場合は、必ずネットに入れたまま、最短時間(10〜20秒)で止めるようにします。その後すぐに取り出し、速やかに平干しの準備をすることが大切です。脱水後に放置すると、しわや型崩れの原因になるため注意が必要です。
水通し後のニットのケア
ニットの保管方法
シーズンオフのニットは、湿気や虫害、型崩れを防ぐために丁寧な保管が必要です。まず、畳んで収納する際には、通気性のある布袋や不織布の収納ケースを使用すると良いでしょう。密閉性の高いビニール袋などに直接入れると湿気がこもりやすく、カビや変色の原因になります。また、直射日光が当たる場所や高温多湿な環境は避け、風通しの良い場所に保管するのが理想的です。
ハンガーにかけて保管すると、重力でニットが伸びてしまい、型崩れの原因になるため避けましょう。特に長時間吊るした状態では肩や袖に跡がつくこともあります。
保管前には必ず洗濯または陰干しで清潔な状態にしておき、防虫剤を一緒に入れることで虫食いのリスクを軽減できます。防虫剤は直接ニットに触れないように配置し、定期的に取り替えることで効果を保ちましょう。
定期的なメンテナンス
長期保管中でも、ニットの状態を時々確認することが大切です。毛玉ができやすい部位(脇や袖口など)は、専用の毛玉取り器やブラシを使って優しく取り除きます。無理に引っ張ると糸が切れたり生地が薄くなったりする原因になるため、丁寧に行いましょう。
また、型崩れが気になる場合や折りジワがついた場合には、軽くスチームを当てて形を整えると良いです。スチームは浮かせて当てる「浮かしアイロン」で行い、直接熱が当たらないように注意します。スチーム後は再度形を整えて平干しし、しっかりと乾燥させてから収納してください。
模様やデザインを保つために
立体的な模様や繊細なレース柄をあしらったニットは、収納時の折り目や圧迫によって模様が崩れてしまう恐れがあります。
これを防ぐために、模様部分に薄い紙や柔らかい布を挟んで畳むとよいでしょう。型が崩れやすい場合は、定期的にブロッキングマットを使用して形を整えることで、美しい仕上がりを維持できます。
さらに、保管時に詰め込みすぎないことも大切です。ぎゅうぎゅうに詰められた状態では、通気性が悪くなるだけでなく、他の衣類との摩擦で毛玉や擦れが発生しやすくなります。
ニット同士はできるだけ重ねすぎず、スペースにゆとりを持たせて収納することで、模様や質感を美しく保つことができます。
まとめ
手編みニットは、水通しとその後の丁寧なケアによって、見た目の美しさだけでなく、長期的な耐久性や着心地も大きく向上します。仕上がりの編み目が整い、模様がより鮮明に際立つことで、既製品のような完成度を実現できるのはもちろん、長年愛用できる一着へと仕上がります。
特に、糸の種類に応じた適切な処理を行うことで、縮みやフェルト化などのトラブルを回避し、ニット本来の風合いや柔らかさをしっかりと引き出すことが可能になります。水通しはその最初のステップとして非常に重要であり、続くブロッキングやスチーム処理、保管や洗濯の方法までトータルで意識することで、ニット作品の美しさを末永く維持することができます。
作品ごとに使われる素材やデザインは異なりますが、それぞれに合わせた丁寧な対応がニットとの良い関係を築く鍵です。自分だけの思いを込めて編んだ一枚を、より魅力的に仕上げ、いつまでも大切に使い続けるために、ぜひ水通しとその後のケアを習慣にしてみてください。